虫のからだの特徴 |
私たち人間は、背骨のあることを特徴とする「脊椎(せきつい)動物」の一員で、このうちウマやウシなどとともに、お乳で子供を育てるグループの「哺乳(ほにゅう)綱」に属しています。
一方、虫の仲間は、背骨のない「無脊椎動物」のうち、脚に節(ふし)のある「節足(せっそく)動物」に属します。この節足動物の仲間には、昆虫の仲間(昆虫綱)をはじめ、
クモやダニやサソリの仲間(クモ綱)、エビやカニやダンゴムシの仲間(甲殻綱)、ムカデやゲジの仲間(唇脚綱)、ヤスデの仲間(倍脚綱)などがあります。
虫の仲間をほかの節足動物と見分ける最大の特徴は、成虫(親)になると頭と胸と腹の部分をはっきり区別できることです。また、原始的な一部の昆虫は翅がなく、
進化した昆虫の中にも翅や脚が退化している例外がありますが、ほとんどの昆虫は、胸の部分に3対の脚(6本脚)と2対の翅(4枚翅)を持っています。あたり前のようですが、
これも昆虫類だけに共通している特徴です。とくに、翅を持ち飛ぶことができるのはすべての無脊椎動物のうちでも昆虫類だけです。クモの仲間を昆虫と思っている人が多いのですが、
クモは頭と胸の区別がなく、脚も8本あり、昆虫ではありません。
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虫の種類数 |
昆虫の仲間は海を除く地球上のあらゆる場所に住みつき、わかっているだけでも世界から約100万種、日本から約3万種が記録されています。
さらに、毎年世界から3000種くらいが新種として発表され、そのペースは現在もなお衰えを見せていません。このため、未知の種を加えた実際の種類数は500万種とも1000万種とも考えられ、
少なくとも全動物種の8割は昆虫類で占められていると推定されています。これがどれほど巨大な数かは、人を含む哺乳動物が約4500種、鳥の仲間が1万種たらず、魚の仲間が約1万8000種、
虫と親戚のカニやエビの仲間が約3万種、昆虫に次ぐ種類数と言われる軟体動物の貝類でも約11万種しかいません。この地球はまさに「虫の惑星」と呼んでも過言ではありません。
昆虫類はさらに体の特長から約30の「目(もく)」という単位に分類されています。すでにわかっている種類の中では、コガネムシやクワガタムシなどのコウチュウ目が約37万種で最も多く、
次いでハエやカの仲間(ハエ目)、チョウやガの仲間(チョウ目)、ハチやアリの仲間(ハチ目)がそれぞれ10万種を越え、この4つの目だけで全昆虫の種類の約8割を占めています。
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虫はなぜ繁栄できたか |
昆虫類は体の大きさもさまざまで、小さい虫は大きい単細胞動物より小さく、大きい虫は小さいほ乳動物より大きいといわれています。
事実、現在までに記録されてる世界最小の昆虫はある種の寄生蜂で0.14mmしかありません。これは針の目を自由にくぐり抜けられるおおきさです。逆に、最大の昆虫には、
体長ではナナフシムシの一種の約33cm、重量ではアフリカのゴライアスツノハナムグリ類の100g以上、面積では東南アジアのヨナクニサン類の仲間の翅の面積263cm2 などがあります。
しかし、これらはむしろ例外で、大多数の昆虫は体長1cm以下の小型種で占められています。
昆虫類が繁栄に成功したのは、環境への適応力がずば抜けてすぐれていること、翅を持ち自分で移動して自由に住む場所を選べるようになったこと、1世代の期間が短く進化のチャンスを増やし、
その速度を早めることができたことなどのほか、体が小さいことも大きな理由のひとつにあげられます。これによって餌も少量で済み、一定の面積に多数の種類や個体が共存できます。
小さいことは体の水分を失う危険性が大きくなりますが、後述のように固い皮膚(外骨格)で体を保護することでこれを防いでいます。昆虫は一定の体温を保つことができない変温動物で、
熱さ寒さは苦手ですが、これも生活の途中で体の形を変える変態や、不適当な環境を眠って過ごす休眠性を獲得することで乗り越えました。変異性に富み、悪い環境でもわずかに生き残る仲間もあり、
そのくりかえしがやがてそこに住み着くことを可能にしました。こうして分布を広げた昆虫たちは、それぞれの土地の環境のちがいに応じてべつべつの種に別れ、たえまなく種類を増やし、
おどろくほどの繁栄をなしとげました。
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虫の変態 |
昆虫類が一生の間に体の形を変えることを「変態」といいます。通常、その変態の様式には次の三つのタイプがあります。
- 完全変態:
- 卵→幼虫→サナギ→成虫と4段階の変化をする。ふつう、イモムシとチョウに見られるように、幼虫と成虫とでは形が違い、幼虫は脱皮を繰り返して育ち、
サナギの時代をはさんで翅を持つ成虫に大変身します。多くの場合、幼虫と成虫とでは、食べ物もちがいます。昆虫類の中ではもっとも進化した変態様式で、
全昆虫の約85パーセントの種類がこのグループに入ります(コウチュウ類、チョウ・ガ類、ハチ・アリ類、ハエ・アブ・カ類など)。
- 不完全変態:
- 卵→幼虫→成虫と3段階の変化をし、サナギの時代がありません。ふつう幼虫と成虫は形が似ていますが、成虫になってはじめて翅が生えます。
多くの場合、幼虫と成虫は、食べ物も同じです。完全変態グループを除く全昆虫の約15パーセントの種類のほとんどがこのグループに入ります。
バッタ・コオロギ類、セミ・ウンカ・アブラムシ類、カメムシ類、トンボ類など)。
- 無変態:
- 不完全変態と似ていますが、成虫になっても翅がない点がちがいます。もっとも原始的な翅のないグループの変態様式で、種類数も少なく、約5000種類が知られているだけです。
トビムシ類、シミ類など。翅を持つ完全変態と不完全変態の昆虫は、成虫(親)になってからはじめて翅が生えます。このグループの中にはノミなどのように翅が退化したものもありますが、
そうした種類を除けば、どんなに大きな虫でも小さな虫でも翅がなければそれはまだ幼虫です。逆に翅があればそれは成虫で、それ以上成長はしません。
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虫の食べ物 |
昆虫類はその食べ物のメニューもさまざまです。それを食べ物の質で見ると次のような4群に分けられます。
- (1) 動物食性(肉食性):
- 生きた動物を食べるもの。カ類やノミ類などの吸血者、カマキリ類、トンボ類などほかの虫を食べる捕食者、ほかの虫に寄生する寄生バエ、寄生バチなど。
- (2) 植物食性(食植性):
- 生きた植物を食べるもの。葉を食べるチョウやガ類の幼虫、木の材部を食べるカミキリムシ類やキクイムシ類の幼虫、葉や果実の汁を吸うカメムシ類やウンカ・ヨコバイ類など、
もっとも種類が多く、重要な農作物の害虫のほとんども含まれます。
- (3) 腐食性:
- 動植物の死体や腐敗物、排泄物を食べるもの。動物の糞を食べる食糞性のコガネムシ(クソムシ)類、腐肉や腐植を食べるハエ類の幼虫などが含まれ、
自然界では分解者として働いています。
- (4) 雑食性:
- 上記の(1)〜(3)のうち食べ物が2つ以上にわたるもの。ゴキブリ類、アリ類、コオロギ類など。
また、肉食性と食植性については食べる植物の種類の多少によって、単食性(1種の植物または動物だけを食べる。たとえばカイコとクワの葉)、
少食性(近縁の複数の植物または動物を食べる。たとえばモンシロチョウ幼虫とアブラナ科植物、特定のグループの昆虫に寄生するタマゴバチ)、
多食性(類縁の遠い多くの植物または動物を食べる。たとえばアメリカシロヒトリ幼虫と多種類の広葉樹の葉、ナミテントウといろいろなアブラムシ類)に別けられます。
また、完全変態をする昆虫類では、チョウ類のように幼虫が特定の植物の葉を食べる少食性で、成虫がいろいろな植物の花の蜜を吸う多食性という、親子でもちがっているのが一般的です。
一方、口の形も食物に応じて変化が見られ、大きく分ければ食物を噛み砕くためのペンチ状の咀嚼(そしゃく)口式と、食物を吸い取るためのストロー状の吸汁口式に分けられます。
代表的なグループとしては、前者にはバッタ・コウチュウ・ハチ類などがあり、左右に動く大あごを持ち、後者にはカメムシ・ヨコバイ・チョウ・ガ・ハエ類などがあります。
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咀嚼(そしゃく)口式: シロスジカミキリ |
吸汁口式: 吸汁中のアケビコノハ |
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虫の生活史と冬越し |
昆虫類の一生(1世代)は卵から成虫まで育ち、次代の卵を産むまでです。種類によってこれを1年の間に1回しかくり返さないものや2回以上くり返すものがあります。
また、カマキリ類や多くのコオロギ類のように、発生回数が遺伝的に決まっていて、どんな場所でも年1回しか発生しないものもありますが、年間の気温の差などの関係で、
多くのは同じ種類でも地域によって年間の世代数が変わるのが普通です。また、少数ですが、セミの仲間や寒い高山に住む虫のように1世代を終わるのに何年もかかるものもあります。
日本のような四季のはっきりした土地に住む昆虫類の多くは、活動に不適当な冬期を眠って過ごします。これを休眠といい、ただ寒いから動けないのではなく、一度低温(冬)を経過しなければ、
眠りから目覚めませんません。休眠して冬を越せるのは、種類によって、卵、幼虫、サナギ、成虫のいずれかの形に決まっています。カマキリ類や多くのコオロギ類は卵の時にすべて休眠しますが、
年何回も発生する虫では、冬以外のシーズンに休眠しては困ります。多くの場合、休眠をするかしないかを決めているのは、その前の育った時の日の長さ(日長条件)です。
たとえばアゲハチョウは春から夏の昼が長い(長日条件)ときに育った幼虫は休眠しないサナギになり、秋の日が短い(短日条件)ときに育った幼虫は休眠サナギになって越冬します。
休眠性は生活史に冬の存在を組み込んだ見事な適応ですが、反面それは分布広げるための大きな障害にもなっています。休眠性を持たない熱帯の昆虫が北または南半球の高緯度地帯へ住みつくためには、
冬の存在が大問題になり、その生まれつき持っている耐寒性の程度だけが頼りになります。このため、日本で見られるこのような種類も大部分は屋内や温室など冬でも暖かい特殊な場所でだけ見られます。
赤道では昼と夜の長さが12時間ずつの短日条件で1年中変化がありません。日本の休眠性を持った昆虫がここに移り住んでも、たちまち休眠してしまい、冬のない熱帯ではいつまでも眠りからさめず、
住みつくことができません。
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虫の増え方 |
どんな動物でも1対の雌と雄が生涯に生産する子供や卵の数がだいたい決まっています。昆虫類は陸上の動物としては卵の数が多い方で、
社会生活をするミツバチやシロアリやなどは1匹の女王が何年も生きて10万から数億もの卵を産みますが、こうした例外を除けば、昆虫類の産卵数は種類によって10個ていどから1万個くらいの範囲に入ります。
ただし、産卵数が多い種類はどんどん増えるかといえばそうは行きません。どんな種類でも卵の多少にかかわらず種類でも、無事に育って次代の卵を産む親になれるのは平均的に雌雄2匹だけだからです。
これが常に3匹以上育てばたちまち増えて餌が不足して共倒れしてしまうでしょう。常に1匹しか生き残れなければ、同じくどんどん数が減って絶滅してしまうでしょう。
つまり、たくさん卵を産む種類は、それだけ天敵などによって育つ途中で死ぬ個体が多いということになります。大ざっぱにいえば、卵や幼虫を親が保護するような種類は育つ途中での死ぬ率が少ないため、
産卵数が少なく、逆に生みっぱなしの種類は産卵数が多いといえます。あらゆる動物はこうして長い進化の歴史の中で生き残れる数を見込んで自分の子供や卵の数を決めてきました。
ただ、虫を飼う場合、結果的に天敵や風雨、餌不足などから人間が虫を保護することになりますので、上手に飼育すれば最初の卵をほとんど全部親まで育てることができます。
こうしたことは自然界では決して起こりません。
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人間とはちがう進化の道 |
昆虫類の起源は4億年以上も前にさかのぼります。まだ、空を飛ぶ恐竜さえ現れなかった時代に、大空を飛んでいたのは昆虫類だけでした。人間の起源はせいぜい600万年くらいしかさかのぼれませんので、
昆虫類は生物としての大先輩といえます。もちろん人間と昆虫類は別の進化の道をたどってきましたので、その行動も、体のしくみもずいぶんちがっています。たとえば、虫には肺がなく、
体の環節の両側に並んだ小さい穴(気門)から空気を取り込み、これを気管という管で体中に送り込んで呼吸します。また、人間などの哺乳動物では焼き鳥の串のように骨が筋肉の支点になっています
(内骨格)が、昆虫類には骨がなく、缶詰のように固い皮膚が筋肉の支点になっています(外骨格)。このため幼虫が大きく成長するためには入れ物の大きさを変えなければなりません。
幼虫が脱皮によって大きくなってゆくのはそのためです。
虫を飼って行動を観察していると、つい人間の場合と比較して考えたくなりますが、こうした比較はほとんどの場合科学的には意味がありません。
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