飼育のための「根気」 |
特殊な場合を除いて、虫を飼うために高価な道具は何一つ必要ありません。この点、熱帯魚や海水魚と違って、だれでもすぐにはじめられる気安さがあります。
その反面、いつもマメに世話をしてやらないと失敗します。お金では買えない多少の"根気"が必要です。このことが虫を飼うための最大のポイントですが、
一番実行がむずかしいことといえるかもしれません。
虫は自然界の中でそれぞれの種類にもっとも適した場所で生活しています。飼育の条件としては虫が選んだそうした自然の住み場所にできるだけ近い状態を作ってやることが理想的です。
しかし、どんなに苦労してもそれを完全に再現することはできません。虫を採集して飼育するーそれだけでその虫は自然界とはかなりちがった生活をさせられていると考えなければなりません。
しかも、虫は種類によって好む環境が極端にちがい、これを室内のほとんど同じ条件で飼育するわけですから、自然状態とはちがうことはあるていどしかたのないことです。
さらに、できるだけ自然に近い状態で飼育しようとするほど、観察がしにくくなります。一応そのことをおぼえておいた方がいいでしょう。
また、飼育条件では飼えない虫もあります。たとえば渓流に住むカゲロウやカワゲラ、ゲンジボタルの幼虫などは、水槽の中ではとても飼えません。
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事実を観察する眼 |
むかし、私の友人がカラタチの垣根でアゲハチョウのサナギを採集していると、その家の主人が出てきてそのサナギを見て、それはハチのマユだといったそうです。
その人にとっては、まさしくそれは自分の観察の結果だったにちがいありません。アゲハチョウの幼虫にはよくアゲハヒメバチという寄生バチが卵を産みつけ、
アゲハチョウがサナギになってから、胸の横に大きな穴を開けて成虫のハチが出てきます。この人は友人からこの話をはじめて聞いて驚いたそうです。
観察にはこれと似たようなことがつきまといます。しかも自分の眼でたしかめたことだけに、一度信じてしまうと間違いを正すチャンスはなかなかめぐってきません。
やはり見たものを事実としてとらえるとともに、その現象を自分勝手に解釈してしまうことは避けなければなりません。とくに、このアゲハチョウのサナギの例にように、
たった一度の経験をすべてと思わないことも大切です。こうしたことを防ぐために、生物の実験ではその結果が正しいかどうかを調べるため、必ず同じ実験を何度もくりかえしおこなって、
同じ結果がになるかどうかをたしかめます。虫を飼う場合も同じことがいえるかも知れません。
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飼育のコツ |
"根気"以外の飼育のコツとしては次のようなことがあげられます。
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- 餌の確保:虫を飼う前に餌が最後まで手に入るかどうかをたしかめましょう。途中で餌がなくなって失敗することが専門家でもあります。
- よくばって飼わない:どんなにたくさん採集できても、欲ばってたくさん飼うと、世話が大変な上に、しばしば餌がなくなって途中でやめることになります。
むしろ数は少なめに飼いましょう。
- 虫(とくに幼虫)はなるべく直接手で触れないようにします。餌を交換するときも、古い餌から無理に幼虫を引きはがすと、病気になったり傷立ついたりして死ぬもとになります。
幼虫が自分で新しい餌に移ってから古い餌を除くようにします。
- 飼育容器はマメに掃除します。虫の食べかすや糞にカビが生えてくるような状態は最悪です。
- 1日に1度は飼育容器をのぞき、虫の様子を見ましょう。病気で死んだ虫はすぐに捨てて、飼育容器も餌も新しいものに取り替えます。
それでも、せっかく飼っている虫が病気で全滅することがよくあります。
- 餌の植物に農薬がかかっていないかどうかたしかめてください。とくに畑から取ってきた餌はこれによって虫が全滅することがあります。
- 同じ飼育容器で2種類の虫をいっしょに飼わないでください。
- 飼育容器は直接日光が当たる場所や、1日中まっ暗な場所に置いてはいけません。また、蚊取り線香などを使う部屋も厳禁です。
- 観察日記をつけることをおすすめしますが、ただ、前述のようにこれが意外にめんどうで、虫を飼う興味までなくなることがありますので、
飼育になれて自分で記録を取りたくなってからでも遅くはありません。
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