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【飼育の実際と観察のポイント】

飼育の実際と観察のポイント 1.鳴く虫の仲間
【虫を飼うための豆知識】
1.虫はどんな生き物か?
2.虫を飼う前に
3.虫を飼うための道具
 動物や鳥のように口から鳴き声を出す虫はありませんが、発音のための特別な器官を持っている虫はたくさんあります。たとえば、セミの仲間は腹の中に発音器を持ち、 ここで出した音をやはり腹の中の大きな空洞で共鳴させて大きくします。また、カミキリムシの仲間にもつかまえるとキイキイ鳴く種類がたくさんあります。 ウンカやヨコバイの仲間も人間の耳には聞こえませんが発音器を持ち、その振動を雄と雌の信号に使っていることがわかっています。

 しかし、一般に「鳴く虫」といえば、スズムシ、マツムシ、カネタタキ、クサヒバリ、カンタン、エンマコオロギなどのバッタ目のコオロギの仲間と、キリギリスやクツワムシなど、 同じバッタ目のキリギリスの仲間を指します。これらの仲間は昔から「秋の鳴く虫」としてわれわれの祖先に愛され、それは『万葉集』にも『源氏物語』などの古典にも数多く登場しています。 鳴く虫をかごに入れて声を楽しむ風流も、すでに平安時代の貴族の間で流行し、やがてそれは一般大衆にも普及して行きました。さらに江戸時代の中期になると、"虫売り"が商売として成立し、 特にスズムシなどは飼育技術が高度に発達しました。しかも、こうした虫の声を楽しむ習俗を持つ人種は世界でもほとんど日本人と中国人だけのようです。日本のある脳生理学者の研究によると、 日本人の場合は虫の声を、言葉や音楽と同様に左脳で聞いているのに対し、欧米人は雑音を聞くのと同様に右脳で聞いているのだそうです。欧米にもたくさんの鳴く虫がいるのですが、 このため、欧米人はその声にまったく関心を示しません。

 このような秋の鳴く虫は、セミと同じように鳴くのは雄だけです。雄の前翅は発音器のために変形して脈がちぢれたような形に変形しているのに対し、雌の翅の脈は規則正しくまっすぐです。 また雌はお尻に長い卵を産むくだを持っていますのでこの仲間の雄と雌はすぐに見分けることができます。

 秋の鳴く虫といわれるように、多くの鳴く虫は1年1回発生し、卵で冬を越し、成虫まで育つのに夏の終わりか秋までかかります。もちろん幼虫は翅がなく鳴くことができず、 成虫になったこのころに急に鳴き声が目立ちはじめます。雄しか鳴かないことでもわかるように、この鳴き声は雄が雌に自分のいる場所やを知らせるための大切な役目を持っています。 そのため、種類ごとに特有の鳴き声とリズムがあり、自然界で違う種類と間違うことを防いでいます。そのおかげで私たちはいろいろ違った虫の声を楽しむことができます。 また、近年は鳴き声を分析する研究が進み、いろいろな種類で、遠くの雌を呼ぶ声、雌が近くにきたときに出す声、ほかの雄が近づいたときに追い払う声など、 目的によっていくつもの鳴き声を使い分けていることもわかってきました。

スズムシ
 まず最初に、日本でもっとも古くから家庭で飼育され、その鳴き声が親しまれてきたスズムシの飼い方から紹介します。何といってもこの虫を飼う楽しみは、毎年卵を産ませてそれを育て、 何年にもわたって続けて飼育できることです。 鳴いているスズムシの雄
鳴いているスズムシの雄
★★ 採 集 ★★
 スズムシの成虫は体長2センチほどの黒い虫です。雄はその名のように、「リーン・リーン」という鈴をふるような声で鳴き、なれれば野外でも声を聞き分けることができます。 平安時代にはその声が松風にたとえられマツムシと呼ばれ、「チンチロリン」と鳴くマツムシの方がスズムシと呼ばれていました。秋田県以南の本州、四国、九州に分布し、 石垣のすきまなどに好んで住んでいます。場所によってはたくさんいるのですが、鳴き声をたよりに自分で採集するのはめんどうで、とくに鳴かない雌を集めるのは大変です。 結局、毎年飼っている人から分けてもらうのが一番かんたんな採集法(?)です。スズムシを飼っている人には、毎年増えすぎて困っている人も多く、喜んで分けてくれるはずです。 また、夏にはほうぼうのホームセンターやペットショップで小さいかごやプラスチックケースに数匹入れたものを500 円くらいで売っています。虫の数が少なすぎて、 3つくらい買わなければならないのと、何とかタダで分けくれる人をさがしてください。

★★ 飼い方 ★★
 小さいかごに入れて売っているスズムシは、ほかの鳴く虫も同じですがただ声を楽しむだけならば、かごの中にカツオブシの粉を乗せたナスやキュウリの切れ端を入れておくだけで十分です。 しかし、長く飼育して卵を生ませるためには容器が小さ過ぎて乾きすぎる上に、明るすぎます。

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スズムシの飼い方

スズムシの飼い方
流木を配置した私のスズムシ飼育容器
私のスズムシ飼育容器の内部

流木を配置した私のスズムシ飼育容器(上)
とその内部

 スズムシは昼間は暗い場所にひそんでいます。昔からスズムシの飼育に用いられてきたのは漬物用の大きなかめや火ばちなどで「つぼ飼い」と呼ばれていました。 私の友人も毎年大きな火ばちに大きな木の切り株を入れて飼っていますが、とてもぐあいが良さそうです。ただ、近年はかめや火ばちがなかなか手に入りにくく、 私を含めて水槽で飼っている人がほとんどと思います。水槽はまた中の虫を観察できる利点もあります。ここでは水槽での飼い方を説明しますが、入れ物が違うだけで、 飼い方はかめや火ばちでも同じです。

 容器:飼育容器の大きさは飼うスズムシの数によって違い、10匹ていどならちょっと大きめのガラスびんや植木鉢でも飼えます。まとまった数を飼うならばガラス張りの水槽が適していますが、 プラスチックの角型の飼育容器や金魚鉢でもかまいません。私の経験では、幅50センチくらいの容器で、50匹くらいは飼えますが、余り数が多いとけんかしてヒゲなどがちぎれてしまいますので、 30匹ていどの数が適当なようです。

 容器の中には産卵用に土を深さ5〜6センチほど入れます。私は園芸店で売っている「芝の目土」という少し粒の粗い土を使っていますが、細かい川砂や塩抜きした砂場用の海砂でもかまいません。 いずれも念のため、2〜3回熱湯をかけて消毒し、手で握っても崩れないていどに湿らせて入れます。庭や畑の土はいろいろな雑菌が入っていて、餌にカビが生えたり、虫が病気になったりして、 消毒もしにくいので使えません。

 土を入れたら、上を軽く抑えて、隠れ家(シェルター)を作ります。シェルターは少しでも虫の住む面積と隠れるための暗い場所を増やすためのもので、材料は縁のかけた小さい植木鉢、 薄い板、すきまの多い石など腐りにくい材料ならば何でもかまいません。とくに熱帯魚用に売っている「流木」(海岸に漂着した空洞やでこぼこに多い木材で木〈ぼく〉と呼ばれています) は好適で、形もよく、容器を鑑賞用に使うのにも適しています。シェルターはできるだけ立体的に組み合わせますが、上の位置があまり高いと餌替えのときに虫がピョンとはねて逃げやすくなりますので注意してください。 同じ大きさの容器ならばシェルターが複雑なほどたくさんの虫が飼えます。

 餌と与え方:スズムシは雑食性の虫です。餌としては植物質の他に動物質が必要です。まず、植物質の餌としてはキュウリで飼う人が多いのですが、とても腐りやすいのが欠点で、 7〜8月の盛夏のときは避けた方が無難です。私の場合は立てに2つに切ったナスを中心に、台所であまったサツマイモ、カボチャ、ニンジン、リンゴなど比較的長持ちのする餌を与えています。 動物質の餌としては、けずりぶしと小魚の煮干しを混ぜてミルサーで粉にしたものが一番いいようですが、煮干しは強い匂いがするのが欠点で、私の場合はけずりぶしだけを与えています。 このほか、私は水も与えています。水分は野菜などからとれるので必要ないといわれますが、与えればよくなめてます。ただしこれがどのくらいのい効果があるかはわかりません。

スズムシの雌 スズムシの雄
スズムシの雌(左)と雄(右)

 餌の与え方でもっとも普通に行われているのは、上記の野菜などをダンゴのように串に刺し、その上にけずりぶしなどを置く方法です。この方法は、野菜が腐りかけて下の地面まで抜け落ちることがよくありますので、 まめに餌替えをします。シェルターの流木や植木鉢の上に直接置くのはやはり腐った汁がたれてカビの元になります。また、けずりぶしは別にびんのふたに入れて地面に置くようにしています。 水は脱脂綿やティッシュペーパーを丸めてにしみ込ませたものをびんのふたに入れて与えています。私の友人は上記の"串刺し方法"を採用していますが、串は太目の銅の針金を切って下部をひねってコブを作り、 餌が抜け落ちないようにして使っています。つまり、餌の与え方は決まった方法はなく、どんな方法でもあまり問題はないといえます。与える餌の量も適当でかまいません。 とにかく少なすぎてなくなれば見てわかるわけですから、むしろ多過ぎて残っているからと放置して腐らせる方が問題です。餌が残っていて、腐らない限り餌を替える必要もないわけですが、 ナスなどでは暑い盛夏で2日に1回、その他の時期は3日に1度くらいがめやすです。けずりぶしはそれよりも1〜2日長く持ちますが、替えるときは古い食べ残しは捨てるようにします。 また、容器の中が乾燥し過ぎると好ましくありませんので、1週間に一度くらいは霧吹きで湿り気を与えてください。ただし草花と同じで、常にぬれているような状態は乾燥し過ぎよりももっと良くありません。

 虫の管理:スズムシをはじめて飼うときは、人から分けてもらったり買ってきたりした成虫やかなり大きくなった幼虫からはじめることが多いようですがこの場合は上述した方法で管理し、 死んだ虫を取り除くだけで十分です。ここでは、卵から育てる方法について述べます。

 スズムシはどんなに上手に飼っても成虫で冬越しさせることはできません。ほぼ10月中にはほとんどの虫は死に絶えます。別項でも述べますが、鳴く虫の雄は翅の脈がくちゃくちゃに乱れているのに対し、 雌ははっすぐな脈が規則的に並んでいて、お尻には産卵管が突き出ているので雌雄は簡単に見分けられます。こうした雌雄が何匹かずつ入っていた容器ならば、成虫が死んだ後、 土の中にはたくさんの卵が残されています。たった1対だけでもうまくゆけば100個くらいの卵が残されています。取り除いた流木などのシェルターはよく洗って来年また使うために保存しておきます。

 産卵と卵の管理:飼っていた成虫が全部死んだら、容器の中のシェルターや死体、食べかすなどを全部取り除き、土の表面をハケできれいにします。 そして数日間水につけておいた木炭を2〜3個土の上に置いて容器とふたの間に油紙かビニールをはさみます。木炭を入れるのは江戸時代から行われている方法で、 これが長い冬の間の乾燥から卵を守り、また木炭の殺菌力で土にカビなどが発生するのを防ぎます。しかし、これがなくても卵が全部死んでしまうようなことはありません。 大部分の卵は土の表面から5mm以内くらいの浅い場所にばらばらに産みつけられています。土の表面をそうじすると長さ3mmくらいの細長い白い卵がいくつか目につくことでしょう。

★下の図をクリックすると大きな図を見ることができます。

スズムシの産卵

スズムシの産卵
卵の管理と冬越しのさせ方

卵の管理と冬越しのさせ方

 容器はそのまま物置の中などに保存します。いつも暖かい室内での保存は不適当です。自然界と同じように卵を冬の眠りから覚ますのには寒さに当ててやることが必要だからです。 冬の間はこのまま何の管理も必要ありません。

 幼虫の孵化と管理:翌年の5月になったら、容器を取り出し、ときどき霧吹きで土の表面に湿り気を与えてやります。6月には10か月に近い卵の時代を終わり、小さい幼虫がゾロゾロ孵化してきます。 スズムシの孵化はもう初夏の季節で、忘れてしまい、気がついた時には容器の中で孵化した幼虫が全部死んでしまっていることがよくあります。カレンダーにつけておいて、 せめて6月になったら容器を室内に持ち込み、3日に一度くらいは中をのぞいてみてください。ヒゲの白い小さい虫がたくさん動いていたらそれが孵化した幼虫です。 とても小さいので、見過ごさないように注意してください。

 幼虫が孵化したら、脱皮するときの足場のために画用紙などの厚手の紙をじゃばら状に3〜4cm幅に交互に折ったものかまたは流木や板だけを入れた新しい容器に移します。 土は必要ありません。最初から土を入れてシェルターを配置した容器に入れてもいいのですが、幼虫が小さいうちは土のない容器で飼う方がずっと楽です。 幼虫の移し替えは紙を二つ折りしたものを入れてやるとこれに這い上るので、それを新しい容器に払い落とす方法を繰り返します。最後に取り残した幼虫は吸虫管で吸い取ります。
小さい幼虫の移し方

小さい幼虫の移し方
孵化幼虫に足場として入れる厚紙のじゃばら折り

孵化幼虫に足場として入れる
厚紙のじゃばら折り
 幼虫の餌は成虫と同じです。けずりぶしを皿に入れ、串に刺した野菜を容器の隅に立てかけておきます。こうして2〜3週間管理します。

大きくなってきた幼虫の管理:幼虫はだんだん大きく育ってきます。5mmくらいになったら、成虫まで飼育するための土を入れて格好よくシェルターを配置した前述の容器に移してやります。 このとき、産卵した去年の土は捨てて必ず新しい土を使ってください。とにかくたくさん幼虫が孵化しますので、これから先は容器の数を増やしても全部飼うのはとても無理です。 余った幼虫は気前よく友達に分けてあげてください。

 スズムシは何度も脱皮を繰り返して8月の終わりころには、最後の脱皮でまっ白な翅のある成虫になります。翅は間もなく黒っぽく変わり、やがて雄が弱々しく鳴き始めます。 鳴き声も間もなくりっぱになりますが、はじめて弱々しく鳴く声には感動し、毎年家族のみんながほのぼのとした気分になります。

 スズムシは同じグループだけで毎年飼い続けると、増えにくくなったり、鳴き声が悪くなったりするといわれます。 ときどき一部を他の人の飼っているグループと交換して新しい血を入れてやる人も多いようです。この累代飼育による劣化がスズムシでどの程度のものかは、実際にはよくわかりませんが・・・・・・。

★★ 観 察 ★★
 スズムシの観察は、卵から成虫に成るまで飼い続けながら、成長のありさまを見守るだけでも十分です。とにかく、こんなに簡単に毎年飼い続けることができる虫はそんなにありません。
 脱皮のようす、成長につれての幼虫の形、餌の食べ方、鳴き声と鳴き方などを観察してください。
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