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アリ類はもっともなじみ深い虫のひとつですが、一般には、害虫のアブラムシを保護したり、食品を食べたり、咬みついたり、 やたらに土を盛り上げたりする「害」のために嫌われています。しかし実際には、巣穴を掘って土壌改良に役立ったり、 天敵として害虫の制圧に貢献したりする「益」の役割の方が大きく、食材としての利用もそのひとつです。 連載第5回に広州で食べたアリ料理「蟻の巣帰り」を紹介しましたが、中国でのアリ食の歴史は古く、かつては帝王の食べ物として珍重されました。 いまでも料理用のアリの袋詰めが大量に売られているほか、各種の薬酒の材料にもなっています。写真の「神蜉酒」もその例で、 効能書きには「原料は黒蟻のエキスで、多くの有効成分を含み、健康、強壮、ハゲ、健忘症に神奇な効能を持つ。朝晩少量を飲み、 酒飲みは多めに飲んでもよい」とあります。もっとも、ぼくは多めに飲んでも効果は実感できませんでしたが……。 食虫トライアングル(第6回参照)では、樹上に葉を綴って大きな巣を作るツムギアリが売られています。ぼくもかつて北部タイでこれを求め(写真)、 村の料理店でスープにしてもらいましたが、日常的な食材だけあって、酸味の強いなかなかの味でした。 日本にはカラマツ林の中に巨大な巣を作るアカヤマアリという種類があり、半世紀ほど前に信越国境の高原地帯で、 このアリをサラダ油で揚げて、約20匹をチョコレートでくるんだ「チョコアンリ」と称する缶詰が、 アメリカに大量に輸出されました。当時一粒が180円もし、2000万円の外貨をかせいだと伝えられます。ただ、 現在ではアメリカでもその存在をしる人は少なく、すでに幻の食品になっているのかもしれません。 アリを食べる習俗は世界の熱帯圏に広く見られますが、変わった例としてアメリカやオーストラリアのミツツボアリがあります。 その一部の働きアリは、他の働きが集めた花の蜜を胃袋にため、自らを直径約1センチの球形の貯蔵庫と化し、 天井からぶらさがったまま一生を過ごします(図)。 この天然の蜜壷は原住民によって古来利用され、とくに、オーストラリア中央砂漠地帯のアボリジニーにとっては唯一の甘味資源でした。 蜜壷集めは主として女性の作業で、1本の棒で身長より深い穴を掘る重労働が伴うといいますが、資源保護のために根こそぎは採らない生活の知恵も守っているそうです。 |